成長は苦労から
1975年電子工学科卒
山根大作
1. はじめに
企業(マクロ的には国家)にとって最も重要な財産は人財であり、その育成はとても重要な課題である。ここでは私の新入社員時代の体験を紹介させていただき、これから社会人となる学生や受け入れる企業の方に少しでも参考になれば幸いである。
2. 体験談
私は卒業後ある企業に入社した。当時の新入社員教育は1年間、社内のいくつかの部門を数か月単位で巡回する実習スタイルだった。
・何じゃこれ??
その実習期間中、ある技術部門が私の実習先となった。そこで私にとんでもない実習課題が与えられた。それはプリント基盤(アクティブ・フィルタ回路)実物とその電子回路図だけが渡され、これが“まともに動作しないので解決してくれ”というものでした。なお、この回路を設計した者は、先日退社したからこの部署には解るものがいないから、よろしく!!とのことだった。そして実習期間は3ヵ月。
・う~む!!
困った!!私はこれまでの知識だけでは解決できそうにもないこと悟り大変悩み、独学で回路網理論関連の専門書などを読みあさって、ようやく電子回路の数式モデル化(伝達関数)手法に到達した。早速、上記電子回路の伝達関数を導出し職場にあった紙テープ式のミニ・コンピュータを用いて回路特性をシミュレーション解析し原因究明を図ることとした。ちなみにプログラミング言語は学生時代習得したFORTANを使用した。これは当時学内の計算機センターにあった大型コンピュータのオペレーション経験が役立った。
・やった!!
回路特性シミュレーションの結果、正常動作しないのは、使用されている複数の部品(R,C)の精度誤差(バラツキ)に起因していることを突き止め、さらにどの部品が総合フィルタ特性に与える感度が高いのかも究明し、ようやく最適な対策案含む報告書を上司に提出することができた(“どや顔で“・・・・)。
・三つ子の魂百まで
この時の自分で悩み・考え・試行錯誤する貴重な経験は、部品の精度誤差に依存しない電子回路設計手法の確立の覚醒につながり、その後の私のデジタル人生に大きな影響を与ることとなった。
・もしかして?
なおこの時、実習先の上司がわざとそのような課題を出したかどうかの真意は、不明のままである。
当時、同期の仲間には実習先で雑用しか与えられなかった者や手取り足取り指導されすぎて本人には何も得られなかった者など様々だったが、私は本当にラッキーだったと思っている。
3. まとめ
この体験から人財育成には、あえてハードルの高い課題を与えるべきと学んだ。これは、新人は甘やかず、自分で悩み考えることで自立心が育成され大きく成長し、また育成側も新人がやる気を出すテーマ選定や環境を提供することに工夫することで共に成長できることがとても重要である事を意味する。もちろんこれが万能策であるとは思わないが、育成する側もされる側も自立した人財育成を目指す一つの手法ではないかと思う次第である。